エンゼルのお話 Story

著者:林 一雄

むかしの仲間

 1957年に「学生シャンソン友の会」という学生の集まりが誕生し、当初は早稲田・東大・慶応・立教・明治・國學院・共立・山脇・跡見の大学生たちが中心となって、月例会では担当者が新曲・自分が好きな曲・特別な想い出の曲を好きな切り口から解説をしました。当時発行された会報の「A Toi」には、新譜の紹介・パリの路地裏の案内・シャンソン歌手の訪問記など盛り沢山の若者らしい記事がまとめられています。

 「学生シャンソン友の会」略して「学シャン」には専攻科目が違うので趣味や知識また経験も異なる個性的な仲間が沢山いて、ここで紹介する「学シャン」の仲間の一人はフランス文学を専攻したのですが当時ではとても貴重なイセッタやメッサーシュミットで通学し、教室では滅多に逢うことはありませんでしたが空手部々室かシャンソン喫茶のベコーやジローに出没していました。
 彼は食べ歩きが好きで、新宿の「すずや」日本橋の「たいめいけん」でクリスマスパーティーを開催しました。

 彼の名は板倉章治君ですが、ここでは学生時代と同じように板ちゃんと呼びます。

昔は若かった

 「学シャン」OB/OGたちの精神年齢は結成して40年を経過した現在も23才ですが、一番若い板ちゃんでさえも無事に還暦を迎え、今のところは車椅子にもパンパースにも頼らずに生活しています。しかし、実は老人予備軍であることは確かで、ケアーガーデン、リアップの愛用者名簿に名を連ね、かく言う私も先頃、東京・千葉・神奈川・静岡などにある老人ホームの体験入居のためにお遍路さんみたいな旅をしたところです。
 板ちゃんが「ビストラン・アブリダンジュ」開店するらしいとの噂を聞いても、何の店かなと思いながらも何かと忙しくて暫く放っておきましたが、日を追うごとに頭から離れなくなり、ついに眠れなくなってしまったので早く眠ろうと、メリーさんの羊が一匹メリーさんの羊が二匹と数え8,381匹まで数えたら夜が明けてしまいました。

 仕方なく、品川区の「学シャン」仲間でも面倒見が良いことで有名な先輩の"長老"に事情を説明したら「あの板ちゃんがリストラでは大変です、何とかしましょう」と言われたので、ユックリ・ハッキリ、いつもの5割り増しほどの大声で「リストラではなくビストランです」と言い直したら「ビストランとかアブリダンジュなど外来語を使わず日本語で話して下さい」と言われました。

 そこで「この言葉はラテン語とかスワヒリ語かもしれません」と説明したら「パソコンを使ったねずみ講や新興宗教を設立、または人に言えない商売だとしたら困ったものだ」と大変心配をして、対策を練る前に調査をするようにと、若い私たちに依頼・指示・命令をしたのです。
 「ビストラン・アブリダンジュ」の調査には女性のほうが協力的だろうと判断した私は、昔の学シャンの仲間であった鎌倉夫人、(昔はポニーテールのお嬢さん)、国立の元女子大生(コクリツでなくクニタチです)女流画家、などのOGに「ビストラン・アブリダンジュ」の調査を頼んだのです。

 そうしたら、彼女たちは自分で調査をせずに親切なOBの大工さん(一級建築士)、店主様(本郷の書店の主)、機械屋(機械の輸出だと言って海外旅行ばかりしている男)、オン大将(奥様が素敵な男)、長老(頭が抜群・ただし光沢のこと)、取締まられ役(著名なデパートの重役)、アラン・ドロン(若い乙女を常時伴ってる独身男)、に連絡し、彼らはその奥さんとお子さんにも協力を求めて、いよいよ日本全域で老若男女・体重身長などに関係なく「ビストラン・アブリダンジュ」の解明に取組むことになりました。

ビストラン・アブリダンジュとは?

 フランス文学を専攻した、板ちゃんが店を始めるからには、屋号の「ビストラン」とはフランス語のBistre=セピア色/褐色、又はBistro=酒場、かのどちらかだろうと想像をしましたが、
 初老の集まる「黄昏酒場」だろうとの調査報告が届きました。しかし「アブリダンジュ」は板ちゃんの顔の色からオーストラリア大陸の先住民のアボリジニーと関係がありそうだとの意見もあり、またフランス語のAbri=避難所とAbricaberne=地下の塹壕の言葉にも捨てがたい魅力があり調査は延長されました。

 と言う事は、大学でフランス文学を専攻した板ちゃんなので「アブリダンジュ」が「アブリ」と「ダンジュ」とに分かれそうで、フランス映画の中で、女性が逞しい男にoh muscles d'acier !=まあ、鉄のような筋肉だこと !と言ったd'acier、また、リシェンヌ・ボワイエが可愛い声で唄い、1931年にディスク大賞の受賞したParlez-moi d'amourでde と Amourをつなげてダムウルと発音し(甘い言葉を、囁いてちょうだいネ!)と唄っていたのを思い出した仲間がいたのです。
 そうです!良いところに気付きました!フランス語はリエーゾンと言ってドゥとアンジュを続けd'Angeダンジュと発音すると、意味は「エンゼル」となるのです。

 また、フランス語のhermitageは隠れ家を意味し、ロシアの文化都市サンクトペテルブルクには、シンボルとも言うべきエルミタージュ美術館があります。オーストラリアでは、避難所・隠れ家・避暑地を「Retreat」と呼びシドニーから車で1.5〜2時間程度のところに大人の隠れ家を持つことが最近流行しています。
 これら調査をまとめると「アブリダンジュ」は「エンゼルの隠れ家」となりますので、板ちゃんらしく、女性相手の何かの商売を開店するのに違いないとみんなの意見がまとまり、ほっとして長老に連絡したところ、長老は「いくら板ちゃんでも、そのようないかがわしい商売を開店してはいけないから、私から止めるように電話で伝えましょう」電話をかけました。

 久しぶりに長老から電話を受けた板ちゃんは「間もなくフランス料理のレストランを始めるのでぜひとも昔の仲間を誘ってお越し下さい」と聞かされたというのです。
 言われてみれば、学生時代に板ちゃんに連れて行かれた食べ歩きを思い出しました。

 いざの店の名が「エンゼルの隠れ家」らしいと判ると、次は各人が持っているエンゼルに関する情報なら何でも集めることになりましたが、エンゼルの存在性とか宗教学的な考えを論じようとか、来世ではエンゼルになって生まれる方法を研究すると言うのではありません。

 キリスト・聖母マリア・神や仏などと同様にエンゼルを見た人・話をした人・声を聞いた聖人は歴史上では沢山居ますが、俗人の代表のような私たちは教会に連なる修道士や信仰を持った画家などの絵や彫刻または宗教音楽などを通じ間接的にエンゼルを理解して来たので、エンゼル又はエンゼルの従兄弟・遠い親戚・友達、さらには、天人・飛仙・妖精などの日本に居るエンゼルのソックリさんに関連することまで、見た・聞いた・読んだ・飲んだ・食べた・関係のある場所・持っているお宝・ペットショップで売りつけられた・人に聞いた・ガレージセールで残っていた・図書館で探した・映画で見た・魚市場で見つけた・インターネットで見た・企業のPRなどの情報までの周辺・関連まで範囲を広めたので、エンゼルと人間との関係の親密な関係は、世界規模で時代を超えていて、動物・植物・鉱物・精神的なものまで百科事典なみの玉石混合の情報が集まりましたので、その中の幾つかを公開することにしました。

 歴史・経済・地理・教育・文学・芸術・建築・動物・植物・食物・レストラン・日焼けサロン・脇道・寄り道・駄洒落・宗教・小説・映画・伝説・小説・噂・ガサネタ・シモネタ・ナイトクラブなど膨大な量ですが、また聞き、新聞・書籍・ホームページを読んだ人からの情報提供などの中には原作者から許可を頂いていない情報もあると思います。盗作をして稼ごうという意志はありません、転載することにご賛成いただけない場合は消去をしますのでお知らせ下さい。

 これらの情報を知ったからと言っても学校の成績が良くなるわけではなく、勤務先で給与が上がるとか寿命が延びたりする学術論文ではありません。お暇と読む気力のある人なら、子供から大人まで・男女・国籍を問いません。エンゼルに関連したあんな話・こんな話をどうぞ気楽にお読み下さい。

エンゼルって、どこの国の言葉?

 中国でも韓国でも漢字では「天使」と書きますが発音となると国または地域によって全く違います。読み方を片仮名で書いても現地の発音を忠実に表現することは困難ですが、中国の北京語では(ティエンシ)、韓国では(チュンサ)と大体似た発音です。下手な発音で話さずに、文字で「天使」と書けば通用します。

 しかし、これらの両方の国でも若い人は国際的になっているので、「天使」と言う単語よりも「エンゼル」か「エンジェル」と言う人が増えています。
 エンゼルとは英語の「Angel」で、ギリシャ語の「A'ngeros」(アンジェロス)が語源だそうで後期ラテン語のアンジェルス、ポルトガルではアンへル、スペインではアンヘロス、ドイツ語ではエンゲルです。

 さて、エンゼルと言う単語ですが、キリスト教の聖書は世界中で1,631の言語に翻訳され、また、5000万人以上の人が日常使っている言語は19種類あり、ナイジェリアだけでも65、インドでは61の言語が使われているのですから、エンゼルという単語もとても沢山あります。
 例えば、デンマーク・ドイツ・オランダの3カ国では「Engel」(エンゲル)、ポーランド語
では「Anjo」(アンジョ)、現在のスペイン語では「Angel」(アンヘル)と書きます。

 エンゼルの意味は、使者・メッセンジャーです。八百万の神がいると伝えられている日本の神には、稲荷の狐、八幡の鳩、山王の猿、出雲大社の兎、熊野神社の八咫烏、鹿島神社の鹿、金比羅神宮の狸、金比羅神宮の烏、三峯神社の狼、大黒様の鼠などの動物が使者として登場します。

 札幌駅から北に約1kmほどのきた13条東にある天使病院で会った年を召した優しそうなシスターと話をしていたときに、私がエンゼルを"守護神"と言ったら「エンゼルは神様ではありません」「崇拝することも間違いです」と厳しく・はっきりと訂正されました。「み使い」だとおっしゃったのです。しかし、旧約聖書外典の「トビト記」ではトビアに大天使のラファエルが守護天使として任命され、ザビエルは日本の守護神として、大天使ミカエルを任命したように、だれでも生まれたときに守護天使(庇護者)が授けられると言う説もあります。

 エンゼルの多くは、新・旧約聖書の正典には登場しないApocypha(アポクリファ)と呼ばれる聖書の偽典・外典や、オカルトなどの伝承の中には存在しています。新・旧約聖書の正典は二世紀頃に教会によって認知されましたが、それから外された偽典・外典と呼ばれるものも沢山あり、様々なエンゼルの出てくるのは旧約偽典の「エノク書」です。

英語でAngelを発音してみましょう。

 先頃イギリス・フランス・スイス・アメリカ・カナダを訪れた、仲間の機械屋が旅行先でエンゼルの模様が入ったネクタイを各国で買おうと大変努力をしたそうですが、その苦労とは、エンゼルと言ってもエンジェルと言い換えても誰にも通じなかったと言う話です。

 中学校に入学してからこれまで50年以上も英語を学び、貿易に従事して世界24ヶ国に行ったり来たりしている機械屋の英語が通用しないとは情けないことで、政府が第二公用語にしようかなどと話題にするのも十分理解できます。

 Angel と書いてあるのをローマ字読みにするとアンゲルで、ドイツからアメリカに移民した人たちが今でも使っている「魚釣り」 を意味し、そしてまたAngeler-Fishとは、あのおいしいが不様なアンコウ(鮟鱇)なのです。

 カタ仮名とひら仮名を混ぜ微妙な発音も可能という本が先頃講談社から、アメリカ人のご主人(J.Junkerman)と奥さんの松本薫さんの提案で発行されました。基本的にカタ仮名を使い、語尾などの無母音の音をひら仮名で書き、LとRとを区別する為にLはカタ仮名Rはひら仮名とし語尾のRは「あ」とLは「う」と表記をし、その他にも幾つかのルールを決めました。この流儀に従ってAngelにふりがなを付けると「エーンジェーう」で、実際に使ってみたらとても良く通じ、ネクタイは見つかりませんでしたが、エンゼル模様のシルクのトランクスまたライターそのほか沢山の美術工芸品などを手に入れ手帰国したと、そのお土産を見せてくれました。

辞典を頼りに・・エンゼルを求めて

 子供の時から判らないことは辞典で調べる習慣でしたが、高等学校の文化祭用のプログラムにヴァイオリンと書いたら、友達が外来語新辞典のバイオリンの項を示したので、一週間以内に辞典を調べてその数を比べることになりました。当時30冊もの辞典を調べるのは容易ではありませんでしたが、ヴァイオリン17対バイオリンは19で私の負けでした。

 エンゼルかエンジェルかですが、角川書店・柏書房・金園社・研究社・講談社・三省堂・学研・集英社・自由国民社・小学館・白水社・博友社・有紀書房・NHKなどから出版されてた辞書ではエンゼルだけが書かれているものとエンジェル→エンゼルは同数で、またエンゼル→エンジェルが1冊、三省堂のローマ字式英和・和英辞典はAngel fishをEnzeru fisshuと書いてあり、一般ではあまり知られていない金園社の辞典にはエィンゼルと書いてありました。そこで早速、カナダから来日していた2人組、イギリスに留学し手帰国してから従業員3000人の会社の社長となった友人などに、エンジェル・エンゼル・エィンゼルと言ってみて、意見を聞いたところ、エィンゼルが一番良い発音だと言われました。けれども私は話す場合も書く場合もエンゼルを使っています。多くの単語を調べた結果では研究社の辞典に最も満足できましたが、幾つかの言葉では裏切られたので、常に数冊の辞書を使っています。

エンゼルのご先祖

 この宇宙には数百万人のエンゼルが居るのだそうですが、誰がその人数をどのように確認したのかは知りません。新旧約聖書に名前を伴って現れるエンゼルはミカエルとガブリエルだけで、「トビト書」に登場するラファエルを加えても三人だけなのです。しかし、ウリエル、アザゼル、ラハブなど、多くの天使が実際には存在しています。

 エンゼルはペルシャの宗教で初めて登場し、ユダヤ教・イスラム教・キリスト教に入ったらしいのです。パレスチナで出土した精霊のレリーフは人間に翼が生えたものとしては最古だと言われていますが、その製作された年代は紀元前2000年頃と考えられています。
 ローマン・カトリックではエンゼルは大変重視され、賛美歌などには頻繁に「み使い」という言葉が使われますが、プロテスタントではさほど顧みてはいません。

 ユダヤ教ではミカエル・ガブリエル・ラファエル・ウリエルの4人、イスラム教ではミーカーイール・ジブリール・アズリール・イスラフィールなどが重要な位置を占め、これらエンゼルの名前の末尾に"el"が多く見られ、これらは神を意味する接尾語です。

日本語ではエンゼルでしょうかそれともエンジェルでしょうか?

 日本語でエンゼルと書くかエンジェルと書くのか、文部科学省では外国語を仮名で表現する場合にどのように綴るのが正しいのか規定していません。従って、本を見ると著者によって異なった呼び方が有るようです。

 仲間に協力をしてもらい国内と海外でエンゼルという屋号を持つ事業所を調べたところ、日本の北から南までの30ほどの都市にある商店や会社などの業種では、エンジェル歯科とかエンゼル美容院のように商売の前にエンゼルを使った業種は231、エンジェルが付いたケースは160でした。エンゼルと書こうがエンジェルと書こうが・・・カラスの勝手でしょ!なんて声が聞こえてきそうです。

 さらに調査を続けた結果約800の会社や店を見つけました。国内では、片仮名で書くものは約300、平仮名で書くものは13軒、英語でAngelと書くものは10軒あり、次に、エンジェルと言う表記は約250軒ありましたが、片仮名でエンジェルと書くものは約230、平仮名でえんじぇると書くものは8軒あり、東京には英語でAngelと書くものは6軒、神戸にはドイツ語でEngelと書く店が1軒ありました。

 ブルーエンゼルやエンゼルハウスなどのように前か後に言葉が続く例は、国内でも約2000軒ありますが、エンジェルクラブとかスゥイートエンジェルなどのようにエンジェルと組み合わせた屋号の数は約1500軒で、エンゼルのほうが多かったのです。けれども、宮城・埼玉・千葉・神奈川・新潟の各県ではエンジェルが俄然多いのです。
 そこで、電話帳で職種を調べたところ、職業でエンゼルが一番多かった職種は美容室、幼稚園・喫茶店・ペットショップ・洋装店・獣医・墓地などと続きました。
 漢字の天使と言う単語と組合わせた屋号は、約350軒ありましたが、山形・滋賀・佐賀には見つかりませんでした。

日本語で一言「天使」と言う屋号は、千葉市・東京の新橋・大阪の八尾市・福岡県の久留米と甘木市にあるスナック5軒、香川県高松市のコンパニオン派遣業1軒がありました。日本の一部でエンゼル・エンジェル・天使・Angelを調査しただけで、日本全国の調査はできていません。